電報・モールス信号
赤い公園においてはモールス信号や電報が作品の中にちょこちょこ顔を出す。以下に列挙する。
・「ランドリー」の歌詞、“ちょっとやそっとじゃ打たない電報”
・「交信」のモールス信号
・「BEAR」の交信の音(2:36あたり)
・「yo-ho」の電報またはモールス信号を打つ音(2:03あたり)
「ランドリー」の電報はすでに記事に書いたが、他の電報・モールス信号も意味は変わらない。「BEAR」で交信の音がするあたりの歌詞は以下。
“今夜もまた
話をしよう
ことばはいらない”(「BEAR」)
これに続く歌詞は、
“ただいまに
おかえりがずっと聞こえる
きっと聞こえる”(「 BEAR」)
これは「東京」の以下の部分と似ている。
“お帰りと言いたくて
ただいまと言って欲しくて
どこからでも分かるように
ネオンサイン光らせてる”(「東京」)
“ネオンサイン”とは、ホテルパークのネオンのことだろう。
「BEAR」においても「ただいま」「お帰り」と言っていた頃、つまりアメリカンハウスの日々と交信している。
注目すべきは「yo-ho」である。
2:03くらい「ダダダダダダ」とボタンかなにかを連打する音が聞こえる(この奇妙な音はrayfさんに指摘されて気づいた)。そこで歌われる歌詞は以下。
“置いていかれそうで
慌ててふと気づけば
空のケースがただ走ってた
そんなゴールで喜べばしないんだから”(「yo-ho」)
そしてその直後のサビの“yo-ho”と叫ぶところで、このボタンを打つ音に呼応するかのようにドラムが連打される。yo-hoはヤッホーみたいな感じか。津野がSOS(モールス信号か電報)を打つと、美しい森から返答の「ho」が力強く轟くということだろうか。
では歌詞を解釈するとどうなるか。
幼少期へSOSを求めて交信をしたり電報を打ってばかりいたら、置いていかれそうになって慌てて走り出した。しかしふと気づくと空のケースが走ってた(近い時期に津野はバンドのことを「容れ物」と言っている*1)。そんなゴールじゃ喜べない。
なにが言いたいかというと、こうである。
まず初期は父のテーマがそれなりに出てくる。特に『公園デビュー』は色濃い。このころに何かがあったと思われる(とくに活動休止のあたり)。しかし中期は父はほとんど姿を消す(“空のケース”)。そして、「yo-ho」で“そんなゴールじゃ喜べやしない”といい、その次のアルバム『THE PARK』では父が全面に出てくる。これは「中期が空っぽだった」という意味ではなく、佐藤千明脱退で<家族>というテーマが再浮上した、と見るべきである。中期は電報を打ってなかったけれど、久しぶりに電報を打ったら未だランドリーからは力強い返答がある、といったニュアンスだろう。
『公園デビュー』と父
「もんだな」に“開かないな 足らないな さらばの門 重たいな”とある。やはり父とはバイバイ出来ないし、父を代替できないのだろう(「贅沢」「ショートホープ」)。<門>はランドリーゲートを想起させる。しかし曲の終わりは“染みちゃうな 忘れたいな しつこいな?うるさいな!”である。決別の意図が感じられる。
さらに<未来>の語も複数回出てくる。「カウンター」では“我々は未来から集合がかかっている”、「贅沢」では“ちゃんと願ってる番狂わせの未来”。これは以前に書いた円環モデルの<未来>ととってよい。
“カウンター喰らったくらいでひるんでしまうならば出直せ 我々は未来から集合がかかっている”とある。何かしらの出来事が活動休止の頃に起こりカウンターを喰らったが、走って、急いで、円環を描いて<未来>にたどり着き、そこで想定外の出来事が起きることを狙っているのだろう(これはおそらく『火の鳥』の「未来編」が「黎明編」に回帰することと関係する。それはまた別の記事にまとめる)。
しかし『公園デビュー』以降、中期においては、このようなモチーフはほぼ完全に姿を消す。以下、中期において父に関わると思われる曲。
・『猛烈リトミック』
「私」→<未来>の語。オリジナルの三曲目なので以前からある曲
「風が知ってる」→“震えてる君をほっとけないのさ”。“凍てつくランドリー”の向こうにいる父のことだろう
・『純情ランドセル』
「東京」→“お帰りと言いたくて ただいまと言って欲しくて どこからでもわかるように ネオンサイン光らせてる”
「ショートホープ」→“代替できない・バイバイ出来ない”
「デイドリーム」→白昼夢はランドリーに相当。“さそう渦”はゲートの向こうの海からの誘い(活動休止の頃に作られた曲)
・「熱唱サマー」
「BEAR」→“ただいまにおかえりがずっと聞こえる きっと聞こえる”
<未来>や<円環>、<ゲート>のモチーフはほぼ出てこない。「私」、「デイドリーム」は『公園デビュー』以前に作られているので、中期ではゼロと言い切ってもよい(前期は『公園デビュー』まで、中期『猛烈リトミック』〜『熱唱サマー』、後期『消えないEP』、『THE PARK』)。